2017年12月25日

旅立つ 〜旅立つ@

みなさん、数年ぶりでございます。
ちょこっと書けたので、読んでもらえるとうれしいです。
続きも書いてます。これが最終章です。


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 あれ? おかしいな。
 いつも必ず行われていた儀式が、今日に限ってやって来ない。

 アタシがミサトの家に居る間、毎朝儀式のように欠かさず行われていたこと。タッタッタッという足音の後に、アタシの上にドサッと飛び乗ってくる、アカリとアタシの朝の挨拶。

 それがなぜか今日に限って音沙汰ない。
 アタシが日本を発つ日、アカリに朝の挨拶ができる最後の日なのに。

「おはよう」

 アタシは寝起きのまま、ボサボサ髪のだらしない格好でリビングのドアを開けた。

「あら、アスカおはよう」

「アカリは?」

 ミサトは困った顔で小さく肩を竦めると、自分の背中を振り返る。「ここ、ここ!」と言いたげな顔で、下に向かってこっそりと指差した。

「アカリ、おはよう。どうしたの? ママに叱られたの?」

 ミサトのお尻に隠れるようにしてアタシをジッと見ているアカリに向かって声をかけたけど、アカリはアタシの声に返事もせず、またミサトの後ろに隠れてしまった。

「アカリぃ」

「朝からずっとこうなのよ」

「そうなの?」

「そうなの」

 やれやれといった表情をしながら、ミサトはアタシを手招きすると、小さな声でこう言った。

「アスカのことが大好きなのよ。アカリも私も」

 差し出されたコーヒーを受け取りながらそのまま顔を上げてミサトを、もう一度視線を下げてお尻の向こうのアカリを、しみじみと見つめた。

 アカリも小さいながら、何かを感じてくれているのかな。私との別れを寂しいと思ってくれるのかな。
 
 この先、私はアカリの成長を再び見ることができるだろうか。

「アカリ、おいで」

 アカリはまだ顔を見せてくれない。

「アカリ」

 ミサトに似て、結構な頑固者ね。
 クスッと笑いたくなるのを必死に我慢して、私はもう一度呼んだ。

「アカリ」

 ほんの少しだけ顔を覗かせたアカリに向かって、大きく両手を広げる。

「アカリ、おいで」

 小さい体をさらに小さくして、イヤイヤという顔をしながら近づいてきた。
 アタシはアカリをギュッと抱きしめる。

「アカリぃ、おはよう! アカリがお返事してくれないから、アスカちゃん寂しかったよー」

「あーちゃん、くるしいよぅ」

 腕の中でアカリが身を捩る。
 ああ、もうお別れね。次にこの愛しい温もりを胸に抱くことができるのはいつかしら。
 そんなことを思って泣きそうになってしまった。

「あーちゃーん」

 私はアカリを胸に抱いたまま、大きく息を吸い込む。

 ああ、なんて甘い香り。




 荷造りを終えると、アタシは数日間お世話になった部屋を見回した。
 初めはミサトの家に泊めてもらうつもりなんて全然なくて、少しだけ顔を見たら、一人でホテルに止まろうと思っていた。

 アタシには、みんなと笑って過ごす自信が、まだなかったのだ。
 乗り越えて生きてきたつもりでいたけれど、実際その機会を目の前にすると、あの頃のアタシが、今のアタシを連れ戻しに来るような、そんな感覚に襲われた。
 もうあの頃とは違う、アタシは一人でも大丈夫。何度も何度も呪文のように心の中で繰り返して、ようやく日本の地に戻ってきたのだ。

 アタシは、上手く笑えるだろうか。
 アタシは、忘れたふりをできるだろうか。


 「案ずるより産むが易し」とはよく言ったものだ。
 あんなに気を揉んでいたのが可笑しくなるくらい、アタシには何の変化も起こらなかった。

 実際にミサトに再会したとき、アタシは自分でも驚くくらい「普通」だった。少しだけ老けたミサトに過ぎた年月を感じたけれど、ただそれだけ。

 ミサトの顔を見たら自然と笑みが溢れてきて、ミサトに抱えられたアカリを見たら、もっともっと幸せな気持ちでいっぱいになった。

 アタシは、いつも通り、上手く笑えてる。
 ううん、いつも通りじゃない。
 いつもよりもずっと、心の底から笑えてた。

 やっと帰ってきたんだ。
 その事実が、アタシの小さな勇気になった。
 
 結婚式で再会したみんなも、自然にアタシに居場所をくれた。いちばん楽しかったあの頃と同じように、笑いあって、はしゃぎあって。
 そこには、昔を懐かしむことはあれど、昔の呪縛に囚われた悲劇のアタシたちは存在しない。

 ただ、ただ、楽しい。そんな忘れかけていた感情がアタシの中にもまだあったことに、戸惑い、そして安堵した。

 しかしながら、最も会いたくて、最も会いたくなかった人との再会が、アタシの心を乱した。
 シンジだ。シンジはやっぱりシンジで、昔とちっとも変わっていなかった。
 身体が大きくなっても、性格なんてそう簡単に変わるもんじゃない。それはアタシが身をもって知っている。

 見上げるくらい背が伸びても、声が低くなって、身体の線が男らしくなっても、やっぱりシンジなのだ。
 いつだってすべての責任が自分にあると思い込んで、すべてを自分の内に隠して、自分より他人を優先する。内面は何も変わっていない。

 そんなシンジに、私がかけられる言葉なんて、何もなかった。
 散々振り回して傷つけたアイツに、今更どんな償いをしても、手遅れなのだ。

 アタシができるのは、ただ遠くからシンジの幸せを祈るだけ。それすらもおこがましいのかもしれないけれど。

 今日ここを発ったら、次に日本へ帰ってくるのは10年先か、20年先か。
 ミサトがいくら歓迎してくれても、やっぱりアタシにはこの国で生きて行く、そんな資格はない気がする。
 せっかくチャンスがあったのに、アタシはまだシンジと正面から向き合えなかったではないか。その勇気も覚悟もなかったのだ。
 言うべきことが、沢山あったはずなのに、結局何も伝えられないまま、あの頃と同じことを繰り返している。
 まだ、ここに居てはダメなのだ。
 アタシはまたひとりの暮らしを始めるために、ドイツへ帰る。


続く





 
posted by 向日葵 at 18:04| 私の作品(サイト未格納)

2015年08月01日

サイトを更新しました。

こんにちは。向日葵です。
毎日暑いですね。少し歩いただけで茹ダコになりそうです。
みなさまも体調に気をつけて、楽しい夏をお過ごしくださいね。

ところでこのたび、ようやく「旅立つ〜想起」が完成いたしました。
以下のリンクからお入りください。

向日葵の咲く丘で

次回から、いよいよ最終章に入ります。
このペースだとあとどのくらいで完結するのかわかりませんが(本当にごめんなさい)、ちゃんと書き上げるつもりでいますので、今しばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。

P.S.鍵括弧の表示がおかしいです。直そうと思ったけど、もう疲れたので今度にします。読みにくくてごめんなさい。
posted by 向日葵 at 13:59| 私の作品(サイト未格納)

2015年04月09日

旅立つ 想起・第5話

こんにちは。
昨日はすごーく寒かったけど、今日はお天気で嬉しいですね。
このままポカポカになってくれるといいなあ。

ところで「旅立つ・想起」の続きができました。
というかだいぶ前に出来てたんだけど、PCをいじってる時間がなくて遅くなりました。ごめんなさい。
今回もキリの良いところまでなのでたいした収穫はないかもしれませんが、続きも鋭意執筆中です。8割方書き上がっているので、もうちょっとお待ちくださいね。

では、どうぞ。


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posted by 向日葵 at 10:08| 私の作品(サイト未格納)